コラム
Vol.5「アジア諸国における土壌・地下水環境基準」 ~複合バイオ製剤オッペンハイマー・フォーミュラ™によるPAHs分解試験例~
アジア諸国の土壌・地下水汚染に関する法整備と市場の拡大
ここ数年、アジアの経済や産業は著しく発展している。それに伴い、土壌・地下水汚染が顕在化し、各国において、法の整備が進み始めた。
韓国では1995年に土壌環境保全法、台湾では2000年に土壌・地下水汚染対策法、日本でも2003年に土壌汚染対策法が施行されており、2016年にはタイ(土壌・地下水汚染を管理する工業省令)で、そして、注目を集めている中国でも土十条が公布された。中国は深刻な土壌・地下水汚染に直面しており、その市場規模は日本よりも遥かに大きいとされる。
日本とアジア諸国における土壌・地下水に係る環境規制物質
土壌汚染対策法により定められた日本の土壌・地下水の環境規制物質の数は、アジア諸国と比較し(韓国を除く)、極端に少ない。
また、アジア諸国との大きな違いは、土壌の環境基準値が、「含有量」ではなく、「溶出量」であるという点である。
アジア諸国における土壌・地下水汚染の市場はこれから急速な拡大が見込まれるが、規制物質の数が少ない日本にとっては未知の物質が多数を占め、調査、分析、浄化のいずれにおいても、日本企業に対応できるのであろうか?
土壌・地下水汚染に関する日本の環境技術は決して進んでいるとは言えず、近い将来、アジア諸国に抜かれてしまうのではないかと危惧される。
PAHsについて
日本の土壌・地下水の環境規制物質の数は少ないが、中でも、石油製品に由来する物質の規制が極端に少ない。
アジア諸国に限らず、海外諸国において、石油製品に由来する物質は規制がなされており、TPH(全石油系炭化水素)は当然ながら、BTEX(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン)やPAHs(多環芳香族炭化水素)にまで、基準値が設けられている。
しかし、日本においては、油汚染対策ガイドラインが制定されてはいるものの、主には油臭・油膜を問題とした内容であって、TPHやPAHsに関しての基準値は設けられていない。(ベンゼンについては、土対法で規制されているが、トルエン、エチルベンゼン、キシレンは対象外。)
とりわけPAHsは日本での認知度が低く問題視されていないが、この数年、海外からの問い合わせは徐々に増えてきている。
PAHs(polycyclic aromatic hydrocarbon):多環芳香族炭化水素
ヘテロ原子や置換基を含まない芳香環が縮合した炭化水素の総称で、縮合環式炭化水素とも呼ばれ、100以上の化学物質が存在する。
性質
親油性で水に溶けにくい、土壌に吸着しやすい、不揮発性といった性質をもつ。
PAHsの数種類は、発癌性、変異原、催奇形物質であることが確認されている。
PAHs汚染の原因
油や石炭、タールの沈殿物に含まれる。
また、化石燃料やバイオマス燃料の燃焼副生成物でもある。
~複合微生物製剤オッペンハイマー・フォーミュラTMによるPAHs分解試験例~
分解試験例1
「ディーゼル油に含まれるPAHsの分解試験」
試験期間:24時間
試験対象:水
表1 PAHs分析結果
化合物 | 初期濃度 (mg/L) | 処理後濃度 (mg/L) | 低減率(%) |
---|---|---|---|
アセナフテン | 69,891 | 4,736 | 93.22 |
アセナフチレン | 11,327 | 67 | 99.41 |
アントラセン | 4,687 | 1,159 | 75.27 |
ベンゾ(a)アントラセン | 28,189 | 6,204 | 77.99 |
ベンゾ(b)フルオランテン | 5,105 | 8 | 99.84 |
ベンゾ(k)フルオランテン | 10,282 | 303 | 97.05 |
ベンゾ(g,h,i)ピレン | 5,332 | 121 | 97.73 |
ベンゾ(a)ピレン | 8,722 | 346 | 96.03 |
クリセン | 74,245 | 4,619 | 93.78 |
ジベンゾ(a,h)アントラセン | 8,279 | 2,166 | 73.84 |
フルオランテン | 674,730 | 132,581 | 80.35 |
フルオレン | 96,801 | 6,160 | 93.64 |
インデノ(1,2,3-c,d)ピレン | 22,433 | 6,306 | 71.89 |
ナフタレン | 54,088 | 2,991 | 94.47 |
フェナントレン | 197,875 | 110,153 | 44.33 |
ピレン | 35,279 | 7,045 | 80.00 |
合計 | 1,307,265 | 284,965 | 78.20 |
出典:Oppenheimer Biotechnology, Inc
分解試験例2
「各微生物製剤によるPAHs分解試験」
試験期間:15日間
試験対象:水
表2 3種の微生物製剤による各PAHs化合物の減少率
単位:%
PAH compound | FR | FC | TE | CK |
---|---|---|---|---|
Acenaphthylene(3) | 45.4 | 50.2 | 49.9 | 19.1 |
Fluorene(3) | 23.1 | 43.5 | 22.5 | 2.6 |
Phenanthrene(3) | 29.6 | 19.6 | 21.7 | 3.9 |
Anthracene(3) | 48.1 | 56.5 | 44.2 | 30.0 |
Pyrene(3) | 65.3 | 50.2 | 28.8 | 6.7 |
Benzo(a)anthracene(4) | 81.4 | 73.2 | 49.4 | 18.1 |
Chrysene(4) | 78.9 | 69.7 | 50.6 | 11.7 |
Benzo(b)fluoranthene(4) | 88.5 | 82.8 | 66.8 | 18.1 |
Benzo(k)fluoranthene(5) | 86.7 | 79.8 | 58.6 | 2.2 |
Benzo(a)pyrene(5) | 87.9 | 81.5 | 67.8 | 24.4 |
Dibenzo(ah)anthracene(5) | 83.6 | 76.8 | 54.7 | -0.8 |
Benzo(ghi)perylene(6) | 85.2 | 79.0 | 57.5 | 6.4 |
Indeno(1,2,3-cd)pyrene(6) | 89.6 | 85.4 | 80.1 | -0.8 |
※()内はPAHsの環の数。
文献:王効挙,杉崎三男,細野繁雄(2010),バイオレメディエーション技術の活用による難分解性有害化学物質汚染土壌の浄化に関する研究,埼玉県環境科学国際センター報 第5号,135-140.