バイオ(微生物)による油・VOCの汚染の浄化、土壌・地下水汚染の対策、排水の処理を実現するバイオレメディエーション
株式会社 バイオレンジャーズ

HOME > 土壌・地下水汚染浄化の最前線 > 複合微生物製剤を適用した揮発性有機塩素化合物による汚染の浄化

Technology Column土壌・地下水汚染浄化の最前線

Vol.3複合微生物製剤を適用した揮発性有機塩素化合物による汚染の浄化

はじめに

揮発性有機塩素化合物とは、トリクロロエチレンやテトラクロロエチレンなどに代表される常温・常圧で空気中に揮発しやすく、塩素が結合した有機化合物である。これらは発がん性物質であり、我が国においてもトリクロロエチレンなどによる地下水の広範囲汚染が、1980年代に環境庁(当時)調査で明らかになった。全国の工業地域や都市域では、地下水汚染防止条例が制定され、環境庁(省)も水質汚濁防止法の改正や土壌汚染対策法の施行などで対応してきた。

揮発性有機塩素化合物に関しては、平成21年度に地下水の水質汚濁に係る環境基準にクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレンが追加され、平成29年4月には土壌の汚染に係る環境基準にクロロエチレンが追加された。これらは、トリクロロエチレン等の分解により生成し得る物質である。

ページトップヘ

バイオレメディエーションの利点と課題

バイオレメディエーションは、微生物の有機物(エサ)の代謝に注目し、汚染物質を分解する技術である。これは、微生物の活動そのものを利用するので、従来の掘削除去や熱処理などの浄化対策と比較して、投入エネルギーが少ない。ただし、汚染現場に元来生息する微生物を活性化して浄化する技術(バイオスティミュレーション)では、土着微生物を扱う点から、汚染現場での有効性、浄化期間等、不確定な要素について懸念されている。

弊社では、多種多様な汚染物質に対応するため、複合微生物製剤(微生物コンソーシアム)を使用している。

ページトップヘ

複合微生物製剤「オッペンハイマー・フォーミュラTM」を適用したVOCs汚染浄化

複合微生物製剤オッペンハイマー・フォーミュラTMは、油やVOCsに優れた分解作用を持つ複数の微生物によって構成されたコンソーシアムである。これは海洋微生物学の権威、米テキサス大学名誉教授カール・オッペンハイマー博士によって開発され、日本を含む世界各国で多くの実績があることから、EPA(米国環境保護局)の「NCP(国家緊急対応計画)製品目録」にも登録されている。

「オッペンハイマー・TCE・フォーミュラ」は有機塩素化合物を効率よく脱塩素化し、無害化する。複合微生物群の働きにより脱塩素化されて生成した炭化水素化合物は、再び微生物の炭素源となり、最終的には水と二酸化炭素に分解される。この一連の反応は分解特性の異なる複数の微生物によって連続的に行われるため、分解の過程で有害な中間代謝物が蓄積せず、二次的廃棄物の出ない浄化が可能である。

オッペンハイマー・TCE・フォーミュラTMの写真 オッペンハイマー・TCE・フォーミュラTM
Dr. Carl H. Oppenheimerの写真 Dr. Carl H. Oppenheimer

トリクロロエチレン等VOCsの分解は、Dehalococcoides属細菌の脱塩素反応(嫌気性条件下)により広く知られている(図1)。しかし、その他嫌気性脱塩素微生物はエチレンまで脱塩素することが難しいとされている。そのため、塩化ビニルモノマー等の有害な中間代謝物の蓄積が懸念されている。一方、トリクロロエチレンは嫌気的な条件で残留していることが多く、好気性微生物を用いた浄化技術はあまり普及していない。

弊社の複合微生物製剤オッペンハイマー・TCE・フォーミュラは、これまでの実験結果から嫌気性条件下での反応とは異なり、(微)好気性条件下での酸化反応に近いことがわかっている(図2)。本稿では、オッペンハイマー・TCE・フォーミュラを適用したトリクロロエチレンの模擬汚染水の分解試験と実汚染地下水の実証試験について結果を報告する。

嫌気性微生物による脱塩素反応の図

図1:嫌気性微生物による脱塩素反応

好気性微生物による共役代謝の図

図2:好気性微生物による共役代謝

ページトップヘ

トリクロロエチレン模擬汚染水分解試験

試験方法

  1. 250 ml容メジューム瓶13本※1にトリクロロエチレン模擬汚染水を200 ml分取
  2. 1.のうち2本を初期分析※2用試料として第三者分析機関に送付、1本を初期各測定※3用試料として確保
  3. 1.のうち4本をコントロール、残りの6本に栄養剤、必須元素水溶液、複合微生物製剤オッペンハイマー・TCE・フォーミュラを定量添加
  4. 3.を振とう機にて振とう培養
  5. 両系列ともに試験1日目、7日目にそれぞれ2本を分析用試料として第三者分析機関に送付、製剤を添加した系列は試験1日目、7日目に1本ずつ各測定用試料として確保

※1分析試料数はn=2、初期測定用試料は同一試料
※2分析はトリクロロエチレン、cis-1,2-ジクロロエチレン
※3 測定は全微生物数(直接顕微鏡法/EB蛍光染色法)、pH

試験結果

各系列の分析結果と全微生物数を表1に、トリクロロエチレンと全微生物数の推移を図3に示す。オッペンハイマー・TCE・フォーミュラの添加により、初期平均濃度0.19 mg/Lであったトリクロロエチレンが試験7日目で平均濃度0.06 mg/Lに減少した。

表1:各分析結果と全微生物数

系列 試験日数 初期値 1日目 7日目
コントロール TCE (Ave.) (mg/L) 0.19 0.2 0.14
cis-1,2-DCE (Ave.) (mg/L) <0.004 <0.004 <0.004
全微生物数 (cells/ml) 3.22E+07 - -
バイオ処理 TCE (Ave.) (mg/L) 0.19 0.08 0.06
cis-1,2-DCE (Ave.) (mg/L) <0.004 <0.004 <0.004
全微生物数 (cells/ml) 3.22E+07 4.69E+07 2.65E+08
トリクロロエチレンと全微生物数の推移のグラフ

図3:トリクロロエチレンと全微生物数の推移     

N県某所トリクロロエチレン汚染地下水実証試験

実証試験の内容

N県某所で明らかになったトリクロロエチレンによる地下水汚染に対して、複合微生物製剤と微生物の分解能力を最大限に発揮する装置(バイオリアクター)を組み合わせたシステムを用いて浄化を行った事例である。

稼働時のバイオリアクターの様子

図4:バイオリアクターシステムの概略図

実証試験の結果

地下水環境基準の揮発性有機化合物の処理前後における分析結果を表2に示す。すべての物質で排水基準値を下回る結果となった。

表2:トリクロロエチレン汚染地下水のリアクター処理結果

項目 原水 処理水
トリクロロエチレン 400 0.17
1,1,1-トリクロロエタン 9.9 0.0026
1,1,2-トリクロロエタン 0.17 0.0017
1,1-ジクロロエチレン 0.3 <0.001
cis-1,2-ジクロロエチレン 130 0.15
ジクロロメタン 14 <0.001
1,2-ジクロロエタン 0.62 0.0039
1,3-ジクロロプロパン <0.0002 <0.0002
テトラクロロエチレン 1.2 <0.0005
四塩化炭素 <0.0001 <0.0001
ベンゼン 0.36 <0.001

ページトップヘ

最後に

ドライクリーニング業や製造業といった工業用地(跡地)では、今後もトリクロロエチレン等の土壌・地下水汚染は見られるであろう。操業中の工場や廃止まで残りわずかとなった工業用地において、バイオレメディエーション等原位置浄化の手を早めに打つことにより浄化コストの低減が期待できる。本稿では、弊社が得意とするバイオオーグメンテーションを適用したVOCsの土壌・地下水汚染浄化について述べてきた。もちろん、弊社の勧めるオーグメンテーションが全てであるとは考えていない。複合微生物製剤を適用したより効率的な浄化工法を確立するために、様々な工法や添加剤とのハイブリット化、新製品開発へ向けコツコツと取り組んでいきたい。

<参考文献>

  1. 環境省HP(https://www.env.go.jp/)新しいウィンドウが開きます
  2. Jeffrey W. Talley, Bioremediation of Recalcitrant Compounds.
  3. Hashimoto, A., K. Iwasaki, N. Nakasugi, M. Nakajima and O. Yagi (2002) Degradation pathways of trichloroethylene and 1,1,1-trichloroethane by Mycobacterium sp. TA27.

ページトップヘ